A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第32話


そんな理由によって護送されるジェイヴァスは、自分がこれから向かう町の情報について騎士団員に聞いてみる。

結果、それなりの規模の町であると言う事が判明した。

研究所が設置されており、その研究所から直に判明した色々な研究の成果をフィードバックして

普段の人間の生活に役立つグッズや機械等を販売している町らしい。

ある意味では王都よりも重要な存在として知られている町らしく、今のジェイヴァスが護送され始める町から

馬車に乗ってさらに西、地図で言えばアイクアル王国の北の方になる。

更に、その研究所がある町からもう少し北に行った所で地下に古めかしい遺跡がある事が分かっているのだが、

そこも入り口が結界? か何かで閉ざされてしまっている為に入れないらしいのだ。


そんな遺跡があると言う事を聞いていたジェイヴァスではあったが、今はそれよりも自分が一体何処に

連れて行かれるのかと言う不安と少しの期待で頭が一杯だった。

(もーここまで来たらどうにでもなれだ。殺されそうになったら精一杯あがいてやるだけだ!!)

騎士団の馬車で護送されるなら、地球に例えてみるのならそのままパトカーで連行されてしまうのと同じ事になる。

事実、今のジェイヴァスの両隣に騎士団員2人が座って身動きが取れない様にされており、更には向かい側の

シートにももう1人騎士団員が座っている3人体制。

更に馬車を引く馬を操るのも一般的な御者では無くて騎士団員が務めている為、万全の護送体制と言えるだろう。


そのしっかりした護送体制で運ばれて行くジェイヴァスは、そのまま町の入り口から出て更に西の方へと向かって馬車に揺られる。

(乗り心地悪いぜ……)

地球の自動車であればサスペンションがついていて、そのサスペンションについているスプリングが路面からのショックを

和らげる役目を持っている為、乗り心地が良くなるのだ。

しかし、この世界の馬車にはそこまでのテクノロジーは無いみたいなので地面から伝わるショックがそのまま

ジェイヴァスの身体、特に腰を突き上げる感じで伝わって来てしまう。

まるで身体の芯を揺さぶられる様な感覚なのだが、護送されている以上文句も言えない。

それに馬車を体験するのはこれで最初の町からあの遺跡まで乗って行ったあの時を含めて2回目なので、若干だが

ジェイヴァスはこのショックにも慣れている。


(……ああ、早く地球に帰りたい)

でもやっぱり不便なものは不便だ。

人間は便利な道具の使い方を1度でも覚えたり、便利な手順を発見したりしてしまうと余程の事が無い限り

どうしても便利な方を使おうとするものだ。なのでそう言った便利な地球のテクノロジーに慣れてしまっている以上、

ジェイヴァスはこの馬車に対して不満タラタラな心境のまま護送されるしかなかったのである。

その不満タラタラな心境が更なるネガティブな感情を呼び寄せ、あの酒場で無様にもボコボコにやられてしまった

自分の不甲斐無さを呪った。

ジェイヴァスだって人間だから落ち込む時は当然あるが、今まで自分は結構強いと自信を持っていた。

事実、この世界に来てからだって多少の苦戦はあったにしろ今まで負けた事が無かったのだ。

最初の槍使いの女から始まり、山道で追いかけられた大きな体躯のケルベロス。町についてからは路地裏で戦った同じ槍使いの男、

遺跡の中で遭遇していたバッジの守護者らしき紫のモンスター、そして街道の前で戦った弓使いの女と、この全てにジェイヴァスは勝利して来た。


だが、それが自分の実力があると確信して自信を持たせていたのだ。

その結果、あの酒場の乱闘には巻き込まれたのもあるが自分から絡みに行ったと言うのもあり、不意打ちを食らって

騎士団が来るまで成す術も無くなってしまったのだった。

40歳になって多少は落ち着きが出てきたかと自分では思っていたがまだまだだったらしい上に、自分の実力を過信して

ジェイヴァスの頭の中の辞書からは「油断」と言う単語がすっぽりと抜け落ちてしまっていた様だ。

(くそ……多人数相手なら常に周りに気を配らなきゃいけねーのに、あの時は自分でも熱くなり過ぎて周りが全然見えて無かったぜ!)

失敗は次の成功に繋がるチャンス、そして学ぶべき事がどんどん見えて来る大切な経験安打になるとその昔、軍に入る前から

習っているサンボの講師から言われた事があるのだが、今の状況を考えると失敗から学ぶべき事でも無ければチャンスでも無く、

馬車で向かう先の研究所に対しての不安と恐怖と疑惑と少しの期待だけだった。

(俺、これから一体どうなっちまうんだろうな?)

留置場でも同じ事を考えて、その後一旦吹っ切れてさっきはどうにでもなれとは思ったものの、やっぱりこうして馬車に揺られていると不安になって来る。

酒場で負けてしまった事も、その酒場の騒動が原因で留置場に入れられてしまったのも、そして自分が今こうして馬車で護送されていると言うのも、

全ては自分の油断と慢心が原因でこうなってしまったのだとジェイヴァスに実感させる様に、馬車の地面を走る衝撃が身体の揺さぶりを通して

伝えている様な気がした。


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