A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第30話


「うわっとぉ!?」

昔のカンフー映画の様に派手にテーブルを破壊しながらいきなりぶっ飛んで来たその人間に、

思わずジェイヴァスは立ち上がってしまう程だった。

一体何なんだよと思いながらこの人間がぶっ飛んで来た方向を見てみると、どうやら酔っ払い同士の乱闘らしかった。

「ちっ、はた迷惑なんだよ」

自分に直接危害を加えて来る様な事をしなければ、幾ら戦うのが好きなジェイヴァスだって何もしない。

あくまでも、手合わせ以外で自分に手を出そうとして来る存在が嫌いなだけだ。


しかし、乱闘は次第に周りの人間を巻き込んで大きくなって行く。

ジェイヴァスはさっさと料理の代金を払ってこの酒場から出ようと思っていたのだが、会計の為にカウンターに

向かっていた所で今度は自分の背中に木製の椅子がダイレクトヒットしてしまった。

「ぐあっ!?」

ジェイヴァスだって、視界の外からいきなり攻撃されてしまえば避けられる訳が無い。

乱闘で物が飛び交う中で身を屈め気味だったのだが、完全に避け切れ! と言うのは到底無理な話なのだ。

これで自分に被害が及んだ為に、ジェイヴァスのリミッターが一気に解除される。


立ち上がったジェイヴァスは、まずは乱闘の1番外側に居る短い茶髪の男の襟首を引っ掴んで力任せに引きずり倒す。

次にその様子に気が付いた乱闘参加メンバーのスキンヘッドの大男が飛び掛かって来るがジェイヴァスは

その飛び掛かって来た男をバックステップで回避しつつ、男が着地した所でその膝を掴む。

掴んだその膝の裏の関節をグーパンチで叩いて崩し、男の足から力が抜けた所で一気に足を持ち上げた。

「ぬお!?」

そうなると男は上体を下にして床に倒れ込む体勢になり、頭が地面に押し付けられる。

その床に押し付けられた頭を、ジェイヴァスは全力で踏み潰した。

「ぐがっ……」

変な声を上げて意識を失った男の足から手を放し、まだ乱闘している酔っ払い達に向かう。


……筈だったのだが。

「おらぁっ!!」

「ごあっ!?」

最初に襟首を掴んで引きずり倒した男が立ち直って来て、ジェイヴァスの頭目掛けて背後からドロップキックをかまして来たのだ。

その勢いでジェイヴァスは前にぶっ飛び、最初にぶっ飛んで来た男と同じ様に目の前のテーブルに突っ込む。

頭にモロにドロップキックを食らってしまった為に意識が一瞬飛びそうな位の痛みを覚え、なかなか立ち上がれそうに無い。

「てめぇざっけんなよこの、クソ、クソがぁ!!」

いきなり引きずり倒された方の立場である男はジェイヴァスの胴体目掛けて更に何度も何度もしつこく蹴りを叩きこむ。

「このおおおお!!」

とどめとばかりにそれでも起き上がりかけたジェイヴァスの頭を、さっきのスキンヘッドの男目掛けてジェイヴァスが

繰り出したのと同じ様に上から全力で踏み潰す。

「ぶがっ!!」

せっかく起き上がりかけたのにまた床に倒れ込む結果になったジェイヴァスは、起き上がりたいのだが思う様に

身体が動いてくれない絶望感と恐怖心と無力感に打ち勝てないままそれでも何とか体勢を立て直そうと踏ん張る。


「おい貴様ら、止めるんだ!!」

「全員その場で動くな!!」

その時、突然酒場に何人もの男女の大声が響き渡る。

意識がようやく正常に戻りかけて来たジェイヴァスが声のする方向を見てみると、そこには簡素な鎧に身を包んだ男女の姿があった。

どうやらこの町に駐留している騎士団の団員達だろうと思いながら、ジェイヴァスはフラフラする身体を攻撃が止んだ隙に何とか起こした。

「うう、つぅ……」

そして、この乱闘の原因を作った酔っ払い達とともにジェイヴァスは町の詰め所まで連行されてしまう事になったのである。


「俺は巻き込まれただけなんだ!! ってか、俺の荷物返せよ!! 急いで別の町に行かなくちゃならねえんだよ!! おい、聞いてんのかこらーっ!!」

椅子を投げつけられ……たのか飛んで来た椅子が当たってしまったのかまでは断定出来ないが、それでもジェイヴァスが

あの乱闘に参加していたのは事実なだけあって見張りの騎士団員は本を読みながら完全に無視を貫いていた。

あの対立している連中がまた何時やって来るか分からない以上、ジェイヴァスはさっさとここから逃げ出して次の町に向かいたかった。

だが、今の状況では脱獄は無理そうである。

何か便利なアイテムでもあれば……と思うのだが、更に悪い事に自分の持っていた荷物は騎士団に没収されてしまっていたのだ。

あの袋の中には地球に居た時から着ていた自分のロシア軍の軍服やせっかくあの場所で手に入れたバッジも入っている。

この際だから軍服はともかく、命をかけてまでゲットする事に成功したバッジだけでも取り返したい所だと思いつつ、

でもこんな状況では動くに動けないとジェイヴァスは考え込みながら牢屋の吊りベッドに座り込んだ。

一体何時になったら地球に帰る事が出来るのだろうか。

今は遠い世界、それも全く別の世界の存在になってしまった自分の故郷であるロシア連邦の大地や町並みに

思いを馳せながらジェイヴァスは少し眠る事にした。


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