A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第14話


ガタゴトガタゴトと馬車に揺られ、西の町に向かって砂利道をリオスは進む。

地球の様にアスファルトやコンクリートで地面が固められている訳でも無いので、こういう場面では

やっぱり地球の方が良いとリオスは思っていた。

(腰を悪くしそうだ……)

おまけに馬車の乗り心地も余り良くは無い。でも乗せて行って貰えるだけでもまだマシかとリオスはここは我慢している。

荷物運びを手伝った御礼とは言えども、タダでこうして西の町まで乗せて行って貰えるのだから立場的に

文句を言える筋合いは無いし、そもそも文句など言う気も起きないのが今のリオスだ。

荷物の中身に関しては何が入っていようがリオスには興味が無かったのでどうでも良かったが、あの女の死体のそばに

落ちていた欠片が妙に気になって仕方が無かった。

(俺がもし事件を担当する立場なら、欠片が産出されるというその鉱山跡を真っ先に調べてみる必要がありそうだと

考えるのが妥当だな)


自分の立場だったら一体どうする? と考え始めれば、まずは気になる場所の調査に向かう事が第一条件。

別にこれは自分じゃなくても素人でもすぐに考え付きそうな条件だろうが……と思うが、軍人としては、リオスは

あいにく歩兵部隊所属の為に事件捜査や以前の路地裏の潜入等というのは専門外。

例えば監察部であれば色々な事件を捜査出来るのだが、そっち方面の部隊に同期は居る事は居る。

しかしリオスの所属している部隊は前線に出るタイプなので後方支援に関しては余り詳しく無かった。

士官学校では座学で前線での活動から後方支援、心理学等の基礎的な部分をまんべんなく習うにしても、もう少し

詳しく色々な事を知っておいた方が良かったか……と後悔しても今更だ。

(でも、流石に異世界に来る事などは予想出来る訳が無いだろう……)

だって異世界等というのは所詮フィクションの中だけ、というのが地球という世界の常識なのだから……とセルフ突っ込みを

心の中で申し訳程度にしてみた。

(地球の常識は、この世界の非常識か)


苦笑いを漏らしながらも馬車に揺られ続けていたリオスだったが、馬車に異変が起きたのはまさにその時だった。

「んおっ!?」

奇妙な声がリオスの口から漏れると共に、馬車がガクンと大きく揺さぶられて馬がいななく声も外から聞こえた。

「何だ、どうした?」

「魔獣だ、早く逃げろ!」

一緒に荷物を積んだ男が武器のロングスピアを取り出して魔獣に向かって行く。

魔獣とは一体どういうものなのかという事には少なからずリオスは興味があったが、男の口調と慌てぶりからするとただ事では

無いという事は十分に伝わって来たので馬車から素早く飛び降りた。

飛び降りて地面に着地すると同時に前方に転がって上手く受け身を取ったリオスは、チラリと戦っている御者の方を見て思わず息を呑む。

見た目的には狼の顔を持っていて、身体は……虎? 体格は地球のサバンナにいるライオンの様に屈強で人間の自分よりも

大きい事は遠目でも分かった。

そして何よりも、ここが異世界だと実感したのはその魔獣の首から先が2つ存在している事。地球ではまず見かける事の出来ない

その光景に若干の驚きと恐怖を感じながらも、リオスは自分の身の安全が最優先であり、そして願わくば誰かこの状況を助けてくれる

人物が居ないかどうかを探しに行く為に魔獣を正面に見て右側に全速力で駆け出した。


その右側にあったものは木がうっそうと生い茂る林。広い場所でもしさっきの魔獣に襲われでもしたら絶対に逃げ切れない、とリオスの

本能が告げている。その本能の警告に従って、リオスの足は迷う事無く林の方へと向かっていた。

本来ならば助けを呼ぶ為には別の方向へ逃げなければいけないという事は、この状況下でリオスも分かっていた。

しかし、異世界に来て初めての魔獣という存在がリオスに未知の経験と言う名前の恐怖を与える。その恐怖が、今はとにかく

自分の身の安全が最優先という思考に繋がるのだった。

(くっ……どうにかしなければ!!)

とは言えども、どうすれば良いのか皆目見当もつかない。まだあの町を出てからそんなに時間が経っていない為、林を抜けて

町へと向かうか……いや、その途中であの魔獣に襲われでもしたら?

冷静な判断が出来なくなっている事にリオスが焦りと怒りと絶望を感じていると、林をどうやら反対方向に抜ける事に成功した。

(林を抜け……た?)


だが、その先にあったのは林とはまた違う光景だ。

「……ここは……」

リオスの目の前に現れたのは岩の断崖絶壁。左側にはその断崖絶壁を削って緩やかな坂にした道がある。

となれば、リオスは高台から町の位置やさっきの魔獣の位置が確認出来るかも知れないと踏んでその方向に足を進める。

(この絶壁の何処かに、この林を上から見下ろす事の出来る様な場所がある事を祈るばかりだ!!)

まずは状況の把握をする事。その為にリオスは足のスピードをアップして坂道を上って行く。

その行動が、リオスに新たなトラブルを呼び込んでしまう切っ掛けになってしまう事等分からぬままに……。


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