A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第11話


麓まで下り切った頃には既に太陽が沈みかけており、休憩を挟んで来たとは

言えどもその休憩時間は短く、おまけに下り斜面を一気に抜けて来ただけあって

軍人のジェイヴァスもヘトヘトになってしまっていた。

(あー、流石にきつかったぜ……)

まだ登りルートで頂上に向かうよりは良かったけどな、と自分に言い聞かせながら

目の前に見える石造りのアーチとそれを支える石造りの門を見やる。

(どうやら、あの女は嘘は言って無かったらしいな)

嘘を言われて盗賊のアジトに誘い込まれたり、あの女の仲間に待ち伏せされたり

していなくてこれもラッキーだったぜとジェイヴァスは思いながらその門をくぐる。

ようやく町に辿り着いたのだ。


(はぁ……ようやく宿が取れそうだぜ……)

そう思いながら町の中へと1歩踏み込むジェイヴァスだが、その瞬間次の絶望感が襲い掛かって来た。

(……ん、待てよ? もしこの世界が地球とは違う世界だったとしたら、俺ってこの世界の金

持ってねえぞ? それにどう見ても俺の出で立ちは怪しい……)

その場合、不審者扱いされてこの世界の治安を守る集団に連れ込まれないとも限らない。

だけど空を見ても、もう歩けるだけの時間は残っていない。

それに山を1つ下りて来ただけあって、他の町を探す事の出来る体力も残っていない。

(ちっきしょう、こうなったらもう突撃するだけ突撃してやるぜ!)


戦場では上官の命令が絶対なので、猪突猛進な性格のジェイヴァスでも命令に従わなければ、

作戦を遂行するかしないか以前の問題で明らかに組織のルール違反だ。

軍隊みたいな場所なら尚更の事であり、軍人は基本的に集団行動。1人で行動する事は

部隊からはぐれてしまった時位のものだろう。

だが、今は作戦遂行中と言う訳では無いし自分以外のロシアの軍人がここに居るのも

確認出来ていない以上、自分の独断だけで行動するしか道は無い。

なのでジェイヴァスは、いざとなれば実力行使も止むを得ないと判断しつつこの街の住人を探して

夕焼けに照らされる土の地面の町の中へとブーツの足跡をつけながら進んで行った。


「ええっと、それじゃあ2階から掃除すれば良いんだな?」

「ああ、頼んだよ」

結果から言えば、ジェイヴァスは宿を取る事が出来た。

しかしその代償は現物支給。つまりは宿の手伝いをしてそれを代金代わりにする事で1泊させて

貰える事になったのである。夕食と朝食まで出して貰えると言うのだからありがたい、との事で

まずは身体の汚れを浴室で落とさせて貰った後に作業着に着替え、ブラシとバケツを持って

ジェイヴァスは2階に上がった。

(気さくな宿のオーナーだったな)


この宿に来るまでに町の人間に宿の場所を聞き、それから宿の中に入って店主に話しかけて

事情を説明したのだが、どうやらこの宿は地球で言う所のバックパッカーのたまり場らしい。

流石に荷物を持っていない事には怪しまれたが、山で動物に持って行かれてしまったと嘘をついた

おかげで、ジェイヴァスは宿の手伝いと引き換えに部屋と食事を提供して貰える事となった。

だが、この宿も明日の朝早くに出て行くと言う約束を既にしている。

主人の方は「手伝ってくれるのであれば何泊でもして良い」との事だったのだが、その主人から

聞いた話によれば何とあの頂上で出会った集団が、この宿に昨日の夕方から出入りしているらしいのだ。

となれば、この宿に帰って来る時間が気になる所だ。


ならば、この宿の作業員を装っておいた方が下手に動かなくて済むだろうと判断。

団体客も結構バックパッカーでやって来る為に、1人用の部屋よりもその団体客用の部屋の方が多いらしい。

そして、ここでもジェイヴァスはこんな嘘をついた。

「そのグループ……だと思うんだけど、そいつ等に因縁つけられてよ。俺、余り関わりたく無いんだわ。

だからもしそいつ等が戻って来ても俺の事は言わないでくれよな」

主人に託(ことづけ)しておいたのだが、これが良い方に転がるか悪い方に転がるかは分からない。

気さくな主人の事だが、もしかしたら和解の為にとか何とか言って自分に引合わせようとして来るのでは? と

ジェイヴァスの警戒心は高まる。


(あー、何だか俺……ちぐはぐだぜ)

猪突猛進ですぐに手が出てしまう癖に、こう言う時には物凄く慎重になる……と言うよりも

人を疑う方が先に出てしまう自分の性格にジェイヴァスは何処か嫌気が差していた。

だがそれと言うのも、5年前に自分の身に降りかかったあんな事件が原因である事に間違い無い。

(あの事件さえ無ければ、俺はもっと人を信用する事が出来てたのか?)

人を信用し過ぎるのも良くないが、かと言ってハナから人を信用しないのも良くない。

伊達に40年も生きていないだけあって、ジェイヴァスも心の中ではそんな事は分かっている。

だけど、どうしても人間には割り切る事が出来ないトラウマの1つや2つあるのだ。

そんなトラウマが、何時か気にならなくなる時が来るのだろうか?

ジェイヴァスはそう思いながら、まずは作業だと床のブラシがけから始める事にした。


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