A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第8話


(巨大生物って奴か。こんなのに襲われたらひとたまりも無えな)

キリンや熊、シャチやイルカ等と言う様に大きな生物は地球にも沢山生息しているが、

この3つの首を持っているケルベロス……かもしれない生物は地球には存在しない、と

自信を持ってジェイヴァスは言えた。

そしてそれと同時に、ジェイヴァスは今まで頭の片隅でずっと覚えていた違和感を一気に

思考回路のメインの場所まで移動させる。

(……今の俺、まさかすっげぇまずい事になってる?)

あの最初に出て来た変な場所……あの女が言うには遺跡だと言っていたあの建物。

それからあの扉の前に存在していたトラップに、ファンタジーの世界から飛び出して来た様な

あの男やさっきの槍使いの女の格好に髪の色。


(で、でもまだ確定した訳じゃねえし? この動物だって誰かの作り物かも知れねえしよぉ……)

絶対そうだと思いたいジェイヴァスは、今はとりあえずあの女が言っていた町まで行ってみるのが最優先だと考える。

その町に辿り着いてみれば、この今の出来事が全て現実なのかどうかを知らせてくれる筈だと信じて。

(さっき顔をつねった位じゃまだダメだ。もっと色々見て回ってみねーと……。けどそんな事、あって欲しく無いぜ。

確かに俺は戦うのが好きだが、あくまでそれは人間相手の話に限ってだ。こんなでかい動物と戦うのは

また別の話だし、そもそもちゃんとした装備が無ければただの犬死にに終わっちまうぜ!)

あんな広い遺跡がある位だから、この山の登山道も一本道だけど相当長いコースになっているのだろう、と

ジェイヴァスは結論付けてから再び足を山の麓に向けて動かし始めた。


だが、その足は5分位するとすぐに止まってしまった。

ジェイヴァスが止めたくて止めた訳では無い。「止めざるを得ない状況」になってしまったのである。

「……なっ……」

目の前から、明らかに人間のものでは無い声がする。

ジェイヴァスが見上げるその視線の先。そこには口の端からヨダレを垂らし、今にも飛び掛かって来そうな

その獰猛な表情でジェイヴァスを見つめる1匹の動物の姿があった。

(や、やべぇ……)

軍人として戦争の前線で戦った経験もあるジェイヴァスですら、この状況は明らかに自分にとって絶望的に不利だと感じていた。

例え、今の自分がハンドガンやマシンガンを持っている場合だったとしても勝つのは難しそうである。

ジェイヴァスは今、まさにそんな動物と対峙していた。


更に言うなら、この動物にジェイヴァスは見覚えがあった。

(こいつ……もしかしてさっきの……)

3つの首を持ち、約3メートルの高さ位と言った所の人間の自分より明らかに大きい身体をして、身体の後ろから

チラチラと見え隠れしている尻尾は不気味にユラユラと揺れている。

先程見かけた、あの倒れて死んでいたケルベロスそのものだったのだ。

自分の目から見てもすぐに分かってしまう位に殺気立っている目の前のケルベロスから一体どうやって逃げ出すべきかと、

普段から余り使わない頭を必死になって回転させてジェイヴァスはチャンスを探る。

(足の速さは図体がでかいからこいつが有利……足場も悪いから、軍服の俺は更に俺は逃げにくい。

それに地の利もこの山をテリトリーにしているこいつにある……つまり……)

つまり打つ手は無さそうだ。それはすなわち死を意味する。


(くそっ、何か……何か無いか!?)

ケルベロスから視線を外さないままで、ジェイヴァスは軍服についているありとあらゆるポケットを上下左右表裏探ってみるが、

出て来たのはボールペンが胸ポケットから1本にスマートフォンが内ポケットから。それと以前、寝酒をするタイプの

ジェイヴァスがウォッカが無くて困った時にすぐに眠れる様にと軍医の知り合いから貰った睡眠薬がズボンのポケットから出て来た。

だが、この状況ではあいにくどれも役に立ちそうに無い。

(くそっ、くそっ、くそっ!!)

そんなジェイヴァスの悔しい心境を読み取ったのか、ケルベロスは息を大きく吸い込んで何かの準備をし始めた。

本能がジェイヴァスの脳に警鐘を鳴らし始める。


「ちっ!!」

咄嗟にジェイヴァスがほぼ真横に飛んでそのまま転がって受け身を取ったその瞬間、今まで彼が立っていたその場所を業火が覆った。

ケルベロスは口から炎のブレスを吐き、ジェイヴァスを焼き殺そうとしたのである。

(くっそぉ!! あの遺跡でもそうだったが、何故俺は炎に焼かれそうになる展開が多いんだよ!?)

そんな事を心の中で嘆いても、この危機的状況は変わってくれそうに無い。

エサにされるのだけは死んでもごめんだぜ、と吐き捨てたジェイヴァスはクルリと足を下り方面に向けて駆け出す。

重力がある分、下り斜面はスピードが乗りやすいので幾分かは逃げ切れる可能性も出て来るであろう。

その可能性も何パーセントしかアップしないが、その何パーセントの違いが明暗を分ける事もまた事実に違い無い。

だが、それは後ろからジェイヴァスを追撃するケルベロスもまた同じ条件になる。

つまりはプラスマイナスゼロと言う訳だった。


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