A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第3話


後ろには、今まで自分が張り付いていた壁の向こうの通路が新たに天井から下りて来た

石造りの壁に阻まれて見えなくなっていた。

しかも、通路に続く部屋と通路の区切り目を壁が分断したのでは無い。

スイッチがついている台座のすぐそばにいきなり落ちて来たその壁は、斧を構えて

こちらに走って来る男をしっかりとジェイヴァスの目の前でブロックしてしまったのだ。

「おいコラ!! テメッ、この壁開けやがれ!!」

壁の向こうから男の怒鳴り声が聞こえて来るが、もう1度ジェイヴァスがそばのスイッチを

押してみても壁はうんともすんとも言わなかった。

「あー、こりゃあこっちからじゃダメみたいだな……」

「はぁ!? ざっけんなよおい!! ここ開けやがれってんだよ!!」

「だから無理だっつってんだよ! わりーけど別のルート探せ!!」


そんな怒鳴りあいをするジェイヴァスがふと後ろを振り向いてみると、そこには衝撃の光景が広がっていた。

「ん、え、あれ?」

壁に取り付けられていたあの大きな壁画。

それにすっぽりと大きな穴が空いている……と言うよりも、その壁画が横にずれていて

その先に暗い穴が出来ているのだ。

恐らく、さっきの壁が落ちて来た時に一緒にずれたのだろうか?

(……行くしか、ねえよな……)

自分が進む事の出来るルートはここしか無さそうだ……と意を決して、ジェイヴァスはまさに

そのブラックホールの様に吸い込まれて行きそうな暗い穴に向かって足を踏み出した。


穴の中は岩壁の通路になっており、軍服のジャケットの内ポケットに入れていた

スマートフォンのディスプレイの光で先を照らしながら進む。

(持ってて良かったぜ、スマートフォン……)

まさかこう言う使い方も出来るなんてな、と苦笑いしながら先へ先へとバッテリーの

残量を時折チェックしながらジェイヴァスは進む。

(本物のブラックホールもこんな感じなのかな?)

そんなブラックホールばりに見渡す限りの黒い空間が広がっているこの穴の中だが、よーく目を凝らしてみると

スマートフォンの光以外にもずっと先に光が見えるのが分かった。

(あっ、あの光!?)

どうやらこの穴は抜け道らしく、別の場所に向かって掘られた通路となっている様だ。

(ひとまず、あそこまで行けば何かが分かるかも知れねえな)

周りの状況に注意しつつ、スマートフォンの光を頼りにジェイヴァスは遠くに見えるその光に向かって

足をペースアップさせた。


そのペースアップの状態で進む事およそ15分。

「あー、やっと出たぜ〜!!」

思わずうーんと背伸びしてそう声に出してしまう程退屈な空間を抜け、ジェイヴァスは別の場所に出る事に成功した。

しかし、ここはまだ最初に出て来たあの建物の中の様だ。

(ここは一体何なんだ?)

ジェイヴァスはさっきからずっと思っていたのだが、この建物はどう考えても近代的な建物には見えない。

むしろギリシャのパルテノン神殿や、ロシアの管轄内に位置しているタタールスタン共和国の世界遺産である、

ボルガル遺跡の白の舘の雰囲気に良く似ていると言っても過言では無かった。

(ボルガル遺跡は前に友達に頼まれて調べた事があったが、白の舘はありゃー確か1340年代に造られたって話だったな……)


そのボルガル遺跡の事を思い出した瞬間、ジェイヴァスの身体に寒気がすると同時に一気に冷や汗が流れ出て来た。

(……おいおい、ジョークも程ほどにしてくれなきゃキツいぜ?)

まさかそんな事があってたまるかと横に首を振ってジェイヴァスは馬鹿馬鹿しい考えを打ち消そうとしたが、

その馬鹿馬鹿しい考えに拍車をかける光景がフラッシュバックして来た。

(待てよ……そういやさっきのあいつは斧を持っていたな。それにあいつの髪の色は確か紫だった様な……)

薄暗かったので光加減で見間違えただけかもしれないが、それにしてもあの格好は現代にはなかなか

あり得ないファッションセンスだったな、とジェイヴァスは思い返す。


そう考え始めると、どんどんその悪い方向の考えがジェイヴァスの中でエスカレートし始める。

(大体、何であいつはあんな格好をしてたんだ? しかも斧を取り出すあの動き、あれは明らかに手に馴染んだ

武器を取り出す動きだった。一切の無駄な動きが無かったからな。仮装パーティーとかでのコスチュームでは無さそうだ……)

そのエスカレートする悪い考えが、ジェイヴァスの心に焦りと孤独感を生み出すのにそう時間は掛からなかった。

(いや、だからこれはジョークだっつの……)

信じ込む様に自分の脳に言い聞かせるジェイヴァスだが、どうにもジョークでは無いと言う確信もまた同時にその心の中にある。

むしろジョークでは無いんじゃと言う気持ちの方がどんどん大きくなっているので笑えない。

(まぁまぁ待て待て!! まだ可能性はあるぞ。あいつはこの変な場所で映画の撮影をしていただけかも知れねえし、

ドッキリテレビの撮影現場に俺がやって来たってだけの可能性もあるし、この地球上にはまだまだ俺達人間が分からない

超常現象とかがあるんだから……あっ、それを考えたら俺は今物凄い体験をしてるんじゃねえのか!?)


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