A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第11話


こんな状況になるなんて勿論リオスには予測出来る筈も無く、今の彼にとっては宿屋へ戻る事を

第一にして足を進めるしかこの状況から逃れる術が見当たらなかった。

足早にリオスは宿屋への道を探しながら町中を駆け抜ける。やっぱり道が分からないので、たまに

その辺りの町人を呼び止める事になるのだが。

正直リオスも内心ではパニック状態。と言うよりも、この状況で自分だけパニックにならない方が

おかしいだろうと思いつつ足を進める……が。

(……ん?)

やけに落ち着いている……。

リオスにそんな事を思わせた光景。それはこの度重なる爆発で騒然としている町中において、

この状況に対して慌てる訳では無く、かといって騎士団員を探して連絡する訳でも無い。

そんな人物を視界に捉えたからだった。

無意識の内に、リオスの足はその人物を追いかけ始めていた。


と言っても勿論あからさまに追いかけるのでは無く、尾行の要領で一定の距離を保って歩き続ける。

尾行のターゲットは金髪を肩まで垂らして軽鎧を身に付けている女だ。

時折露店で何かを見る為に立ち止まったり、人混みに紛れて見失いそうになったりとなかなか一筋縄ではいかず、

リオス自身も後方支援担当の部隊に研修に一時出ていた事がある位で尾行や潜入と言うミッションについては専門外だった。

(こういうのはどちらかといえば潜入や工作部門で、もっと言えば探偵とか刑事の仕事だろう……)

それを考えてみると、普段からこんな事をしている探偵や刑事と言う職業はやはり軍人とは違った存在なのだな、とリオスは再認識。

そう思うのであれば、こんな尾行を今すぐやめてさっさと宿屋へ向かうべきなんじゃないか。

そもそもこの尾行は誰かに「やれ」と言われてやっている訳でも無いだろうと心の中でも自分に問いかけ、そして提案する。

それでも、リオスにはその女の落ち着き様が気になって仕方が無かった。

その違和感の正体を確かめない事には宿にはまだ帰る事が出来ないだろうと直感的にリオスは思っている。

確かに、自分はどちらかと言えば面倒な出来事に首を突っ込むのは余り好きでは無い。

けど、今回の事に関して言えばその怪しさが余りにもリオスの心を掴んで離さなかった為に足を動かして尾行をさせる今の行動に繋がっていた。


ただそれだけの思いでリオスが尾行を続けて行くと、やがて女は人混みのある表通りから路地裏へと入って行った。

(また路地裏か……)

どうにか追いかけて行きたいリオスだったが、最初の路地裏での出来事が頭を掠める。あの女がもし自分の尾行に気が付いているとしたら?

それに、あの女が1人じゃ無いとしたら?

そんな考えがリオスの足をストップさせてしまうが、ストップしたのは足だけでは無かった。

「よっ!」

そんな景気の良さそうなトーンの声と共に、リオスの肩にポンと誰かの手が置かれる。

リオスがバッと振り向くと、そこに居たのは何時ぞやにあの地下闘技場で出会ったホルガーとか言う黒髪の男だった。

「あ、あんたはこの前の……」

「あんたの格好と、その長い銀髪は目立つからすぐ分かった。こんな所で何してるんだ?」

リオスは別に尾行の事を話す必要も無いだろうと思い、その部分を抜いてホルガーの質問に答える。

「ああ……町を見て回っていたんだが、さっき何処かで爆発があったらしくて。それでこの辺りがパニックになっていたから、

面倒な事に巻き込まれる前にそろそろもう宿屋へ戻ろうかと」

自分が爆発の起きた場所の文字通り目と鼻の先に居た、等と言えば根掘り葉掘り聞かれてしまう事になるのは

目に見えていたので、あくまでも爆発があった事を知っているだけにしておいた。


ホルガーはそのリオスの答えにポンと手を打つ。

「そういや、さっき何回か爆発があったらしいな。どうやら無差別に家が狙われているんじゃないかって俺は騎士団員から聞いたんだ」

「無差別……」

この世界でもこういう爆弾……かどうかは分からないが、テロリストの様な存在が居るとしたら厄介な事だろう。

「ちなみになんだが、こういう爆発事件は良く起こるのか?」

「まっさか。俺は結構長い事この町に居るけれど、爆発事件がこんなに連続するなんて初めてさ。怖いよな。俺の便利屋の仕事にも影響がありそうでよー」

宿屋への道を知っていると言うホルガーに案内して貰いながら彼のぼやきをリオスは聞く。便利屋なら色々な事に精通していそうなので、

爆発事件の後始末等の仕事とかも入って来そうな物だが……。

その疑問をそのままホルガーにぶつけてみるが、ホルガーは肩をすくめる。

「まー確かにそういう事もあるわな。人手不足で駆り出される事もあるし。俺は便利屋だからな」

何処か嘲る様なホルガーの口調に、リオスはこの男も何だか色々ありそうだなと思っていた。

「ああ、ほら着いたぜ」

「どうも感謝する」

「良いって良いって。それじゃあな!」

結局、あの女を最後まで尾行する事は出来なくて中途半端な結果になってしまったまま、自分を宿屋まで案内してくれたホルガーと別れて

リオスは自分の部屋に戻った。


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