A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第47話


「トレーニング? 私とか?」

「ええ、お願いします。俺……あの時コラードさんに負けたのがどうしても悔しいんです。

俺だって武術をやっている身としては、負けっ放しで終わりたく無いんですよ」

「……まぁ、移動に支障が出ない程度になら構わんが」

「あ、ありがとうございます!」

馬車を降りて1度目の野宿。

ここで寝る前に思い切ってクリスピンにトレーニングに付き合ってくれないかとロシェルは聞いてみた所、

意外にも付き合ってくれるとOKを貰えた。


だがコラードの使っていた武器は大斧。そしてサブウェポンとしてはナイフがあった。

それに対して今のクリスピンが持っている武器はロングソード、それにロングソードが無くなった時の為の短剣だ。

まさかとは思うが……と若干の不安を覚えつつ、ロシェルはクリスピンにこんな事を尋ねてみる。

「クリスピン団長は、ロングソード以外の武器は使えないんですか?」

そのロシェルのセリフに、クリスピンは若干ムッとしながら答える。

「失礼な。我が公国騎士団では色々な武器の鍛錬をしている。まぁ、これは我が国の騎士団に限らず

この世界の殆どの騎士団でもやっているがな。私も剣だけでは無い。槍も使うし弓だって鍛錬する。

それから盾の鍛錬も行うし、お前と同じ様に体術の訓練もしている」

「って事は、斧も扱うんですか?」

確認の為に聞いてみたロシェルに、当然と言わんばかりの腕を組んだ尊大な態度でクリスピンは頷く。

「当たり前だ。あの傭兵が扱っていた長斧、それから手斧と両方やる。戦場では色々な武器と体術を

扱える様になる事が、生き残る為の術になるからな」


そしてそこで、クリスピンはロシェルの意図に気が付く。

「さっき、お前はあの傭兵に負けたのが悔しいから私と鍛錬したいと言っていたな。

もしかして、私があの傭兵と同じ様に斧を使う事を望むつもりか?」

「はい、出来ればそれが1番良いんですけども」

それを聞いて、クリスピンは何やら考え込む様子を見せる。

「……どうしました?」

「ああ、いや……この先の1つ目の町で、もし鍛錬用の斧が手に入ればその時に斧で相手をしてやっても良い。

騎士団の詰め所が町ごとに設置されているのだが、簡単な鍛錬用の武器も一緒にそれぞれの詰め所においてあるからな。

詰め所の騎士団員の鍛錬用にだが」

「あ、なるほど……」

「しかし今はこの剣しか無いから、これで良いなら」

「勿論です。それでお願いします」


と言う訳で、この世界の戦い方をもっと知る事が出来るチャンスがやって来た。

トレーニングと言ってもこの先の旅路はまだまだ長いので、クリスピンの言う通り支障が出ない範囲でのものになる。

それでもやらないよりはやった方がましだと言う結論に達したロシェルは、何時もの通り身体をストレッチし始める。

クリスピンも同じ様に股関節を広げたり、腕を斜め上にもう一方の手で引っ張るストレッチで身体をほぐして

お互いになるべく怪我をしない様にする。

殺し合いならいざ知らず、手合わせで怪我をして旅に支障が出る程バカバカしい事は無い。

やがてお互いのストレッチが終わり、いよいよ手合わせがスタートする。

「さぁ、それじゃあ行きますよ!」

「ああ、私も準備は良いぞ」


草が所々繁っている土の地面で、ロシェルとクリスピンは互いに向かい合う。

(……来ないのか?)

ムエタイの構えを取りつつ相手の出方を窺ってみるロシェルだが、行きますよと自分から言っただけあってか

クリスピンは向かって来る気配が無いと踏む。

「……ふっ!」

なので小さく息を吐き、意を決してクリスピンに向かって駆け出しつつ斜め上に向かって走り幅跳びの要領でジャンプ。

ダッシュからの攻撃ならばこれが最もオーソドックスなアタックだが、やはりクリスピンも騎士団長でありあのコラードとの

手合わせで審判をしていただけあってあの時のコラードと同じく横にかわす。


そこから身体を右回りに反転させつつ、クリスピンは自分の横を跳び蹴り通過したロシェルにロングソードを振り抜こうとする。

だけど、ロシェルもコラードとの手合わせで自分がどうすれば有利に戦う事が出来るかを感覚的に学習していた。

(……来る!)

直感でクリスピンがロングソードを振り抜こうとしているのが分かったロシェルは、着地と同時にそのまま前へ身体が

進もうとするエネルギーを利用して思い切って前方にハンドスプリング。

ロングソードの刃はロシェルの足の下を風を切って通り過ぎる。

しかしまだまだ油断は出来ない。

(相手は騎士団長とかそれ以前の問題で、武器を持って掛かって来る相手だからな!)

だったら自分の間合いでペースを運べる様にするのが戦いの基本。相手のペースに乗せられてしまえばそれだけで勝率はがくんと下がる。

少しでもこの戦いで早めに自分のリズムを掴むべく、ロシェルは更に襲い掛かって来るロングソードの刃先からギリギリで逃れる。

地球では名ばかりの佐官ではあるが、この世界でも同じ様に何時までも負けっぱなしじゃ終われないと意気込んだ。


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