A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第44話


悶々としたロシェルのその心の中を察したのか、大公が次のセリフを続ける。

「こちらとしても協力を惜しまないと言った以上、君の処遇に関しては出来る限りの努力はする。

しかし、絶対に事態が良い方向に転がると言う保証は無い。そこの部分だけを分かって頂けると嬉しい」

「あ、はい……分かりました」

まさかこんな場所で、そしてこんな形でこんな話をされるなんて。

ロシェルはこれから自分の処遇が一体どうなるのかと言う事で自分の頭の中が一杯一杯になるのを

感じていたが、大公に再び声を掛けられる。

「して、話は変わるのだが」

「はっ、はい?」

「こんな場所で一体何をしていた? と言うよりも、ここには一体どの様にして入った?」

「え、あ……」


クリスピンも気にしていたその事をしっかりと大公は確かめるべく、実際に自分の前ロシェルに

あのセキュリティを超えて貰う事にした。

「ここでこうやって超えて……そしてこのドアを開けます……よね?」

ここに潜入する時と同じ様にまずは柵をジャンプで飛び越え、その後に普通にドアを開けて階段のある

部屋へと足を踏み入れる所まで実演した所で終了だ。

だが、その光景を見ていた大公やクリスピン達は皆揃って一様に驚きの表情をその顔に浮かべる。

「え?」

「いや、それはおかしいだろう」

「作動しないと言う事か?」

検証の為に立ち会って貰った魔術師達からも、疑問と驚きが入り混じった声が聞こえて来る。


そこで試しにこの世界の人間でやってみて貰って、魔術のセキュリティが作動するかどうかを確かめてみれば

良いのでは無いかと言う事で大公から直々に命じられたクリスピンがその実験台になる。

このセキュリティを解除して貰う為にはまず、司書に地下の書庫の使用許可を取ってから紙で出来た小さな

カードを許可書として首から紐でぶら下げる。

そのぶら下げたカードを持ってドアの前に立ち、ドアに取り付けられているそのプレートにカードをかざせばドアの

ロックが解除されてドアの向こうへと行く事が出来る仕組みなのだ。

「これが一連の流れだ。ちなみに下にある鉄のドアを開ける為にもこの許可証をかざさなければ入る事は出来ない筈なのだがな」

「え……あ……え?」


大公やクリスピンを始めとして、現場検証にやって来た魔術師や騎士団員等のその場に居る全員からロシェルは

疑いのまなざしを向けられる事になってしまう。

けど、ロシェルはロシェルでしっかりと反論。

「ちょっと待って下さいよ。皆さんも見たでしょ!? 目の前で、俺が、このドアを開ける所を!!」

「それは確かに……」

最後は単語ごとに言葉を区切って、自分の身体が正常である事をロシェルが強くアピールすると、魔術師達も

クリスピンも納得せざるを得ない様である。

そして大公も神妙な顔つきで頷いた。

「魔術によるドアの封印はしっかりと作動している事になるか。そうなると、どうやら君の身体には魔術の類は通用しない様だな」

どうやらロシェルの身体は、この世界の人間達にとっては色々とイレギュラーな物らしいと言う事は今一度再確認出来た。

あの武器の件と言い、このドアのロックの件と言いこの世界の常識はロシェルの住んでいた地球の非常識らしいので、

まだまだ何処で何がイレギュラーな事に繋がるかロシェルも結局分からずじまいのままでこの検証は終了したのである。


一先ず部屋に戻されたロシェルは、今日はもう部屋から出ない様にとクリスピンから言われて身体を休める事にする。

「言われなくても、今日は俺ももう疲れちまったよ……」

クリスピンが閉めたドアに向かってそうポツリとロシェルが呟き、シャワーを浴びる為にシャワールームへと向かう。

(俺の身体、一体どうなってんだ? 体感的には地球に居た時と何も変わってないし、別に魔法が使える訳でも無さそうだし、

それから別に身体能力が上がった訳でも下がった訳でも無さそうだし?)

シャワーから出て来る湯を浴びながら、ロシェルは頭の中を駆け巡る幾つものクエスチョンに自問自答をしようとするが、

まるっきり良い答えは全然出て来そうに無い。

(あーもうこれは訳が分かんねーな。今考えた所で俺にはさっぱりだぜ)

色々な事が重なって疲れてしまったロシェルはシャワールームから出てベッドへと潜り込むが、もしこの先地球に戻れなかったと

したら自分の身体に何か異変が起きる可能性もあるんじゃないか……と考え始めると心臓がドキドキして、その日から

なかなか寝付けない日々が続いた。


そんな寝付けない日がスタートしてから、ロシェルの城での生活に少しだけ変化があった。

書庫の閲覧は禁止されてしまった上に、作業をする時にも今まで以上に見張りの数を増やされてしまい、

作業をする場所も多めに言いつけられる様になった。

これは無断であの地下の書庫に侵入した事による罰なのだろう、と脳味噌まで運動神経に犯されているロシェルの頭でも

理解出来たのだが、そんなロシェルの頭に更にショックを与える出来事が寝付けない日がスタートしたその1週間後に訪れる!!


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